本誌特別取材班 2019年1月30日
【人物紹介欄】武島芽衣子さん 聴覚障碍と性同一性障碍 ダブルマイノリティを生きる
ろう者で性別適合手術済みトランスジェンダーというダブル・マイノリティである武島芽衣子さんはLGBT関連用語の手話のパンフレットをつくり、全国で講演に励んでいる。
武島さんはホルモン焼き肉の店を営む父と母の間に3人兄弟の長男として埼玉県秩父市に産まれた。原因不明の先天性聴覚障碍者として育った。家族全員健聴者であり、手話や発話練習を受けるために幼少時から聾学校の寮で集団生活を送った。
物心ついた頃から少女的なモノを好み、小学生から少女向けアニメやゲームにはまり、毎日没頭した。特に「美女戦士セーラームーン」が好きで、女児向けキャラクター下着を両親に懇願して買ってもらった。しかし彼女の幼少期には「オカマ」という概念はあっても、LGBTなんて概念も言葉も知られて居ない時代だったこともあり同級生からから「オカマ」となじられた。「正直、周りがろう者でしたが、心の性が女ということはまったく理解されなかった。私は成長するにつれ、より一層と可愛いらしい服を着る事に強く憧れました。でも思春期ともなると自分が男性の身体であると思い知らされる二次性徴に悩まされ、女性の服を着ることに、なんとなく後ろめたく葛藤を感じました。」
元々アニメ好きだった彼女はコスプレの存在を知って始める。「アニメコスプレイベント等では『女装コスプレイヤー』は珍しくはないから、女性のコスプレが出来て自分らしくなれました。」それからは、女性の格好で婦人服売り場に行き女性としてショッピングを楽しむようになる。「周りからは『可愛い』、『似合っている』と言われて、すごく嬉しかったです」と彼女は振り返る。
しかし同時に言われる度に女になりたいと思い、性転換手術の方法を調べ始めた。しかし当時はどの資料にも学生が性別適合手術を受けるのは手術不可能と書いてあった。「性同一性障碍」の言葉を初めて知ったのは『三年B組の金八先生』だった。上戸彩さんが性同一性障害の役演じる姿を見て衝撃を受けた。その時の武島さんは20歳だった。そして、彼女はその年に社会人になる。「大手企業に就職して手術代を貯めるまで男としてガムシャラに仕事しました。男扱いは屈辱でしたが、ずっと我慢してきました。『魔女たちの22時』というTV番組で佐藤かよさんのカミングアウトを見て衝撃を受けました。同じトランスジェンダーということだけでなく、趣味がアニメやゲームだったり共通点も多く大ファンになった。で佐藤かよさんに逢い、悩みを相談したこともある」
約10年で会社を退職し、得たお金で性別適合手術を受けた。「長く時間がかかったけど、やっと自分を取り戻せたと感じました」と振り返る。今はろう者・LGBTの啓蒙活動をこなしている。
「今年は東京レインボープライドでブースを出したら、保坂展人・世田谷区長や枝野幸男さんが見学に来た。LGBTろう者を対象に講演会もしています。世間ではLGBT講演会はたくさんありますが、ろう者を対象にしたものは皆無に近い。ろう者の中には手話しか理解できない人もいる。だから文字の資料だけでは理解出来ないろう者が多いんです。私の講演会は手話通訳士に全部通訳を頼んでます。それでも解らないと言われたら、私が直接手話で教えてます。」